文章を書ける事に憧れた人のブログ

文章力を上げる為に1ヶ月1回と考え、2018年は12個何か描く

私とお酒と駅のホームに打ち上げられたワカメ

どうしようもない酒飲みはどうしようもない酒飲みを呼ぶ。
言うなれば呼び水ならぬ呼び酒というやつだ。

 

日曜の昼さがりから一人でぶらぶらと飲み歩いた私は電子カードにチャージされた交通費を残し無一文の状態で帰りの電車に揺られていた。

明日からまたヒトモドキを5日間も演じなくてはならない、演じるだけならまだしもサブクエストの仕事もきっちりこなさなきゃいけないなんてこの人生とかいうゲームはゴールも勝利条件もグジャグジャだしホントゴミ、開発者が7日なんかで世界を作ろうとするからだ、と現実から飛躍してみたものの迫り来る月曜に心は勝てぬまま最寄り駅のホームについた。


さっさと帰って寝よう、いっそ私が寝ている間急に布団が命を得て驚いた勢いで私を絞め殺してくれればいいのにと更なる逃避を重ね歩くと足が何かにぶつかった。

 

ワカメだ。
海で打ち上げられたようなワカメが私の足に絡み付いている。

 

よく見るとそのワカメからは細く白い手が生えていた。
ワカメにしてはセンスの良いネイルをしている。
そしてよくよく見ると足まで生えている。
恐る恐るワカメをめくると泣きと酔いでドロドロになった顔が出てきた。

仮にも都内からアクセスの良い人通りがある駅のホーム、
このままではこのワカメは私のような不注意人間の餌食になるだろう。
自責の念もありひとまずベンチに移動させ目を覚まさせる為に自販機で水を買い、満を持して話しかけた。

 

「大丈夫ですかー?」
「ダジョブジャナイ・・・」

 

大丈夫みたいだ。

 

買った水を渡すと
「えーうそーほんとじゃーん ありがとー今優しさちょーしみるー」
というボケツッコミを披露しながらワンワンと泣き出してしまった。

 

話を聞くとどうやらフラれたらしい。

 

すごくすごく好きでつきあえて会えない日もあったけど
会えた日はすごくやさしくしてくれたから
今日は誕生日だしってプレゼント渡したいから
会いにいったら別の子いてあたままっしろだし
なにいったかとかいわれたかとかわかんないけど
もうクソ、あいつもだけど私もクソ、
なんで好きだったのかわからないのに今めっちゃ涙出る
涙腺いらない、ほんとやだ

 

相手の誕生日プレゼントが入っているという紙袋を弄りながら酒でも晴らし切れなかった鬱憤をこれでもかと吐き出した。

 

水につけた途端吐き出すとか、お前ワカメじゃなくてアサリだったのか。

 

酔ってふやけた頭はそんな的外れな事を考えつつも、その素直に悔しがるまっすぐさは、ただ月曜が嫌というだけで自分をダメにした身としてはキラキラと眩しく羨ましかった。

君は良い子だもっといいやつがいる、そうは思うものの酒で箍の外れた口はとても素直に感想を吐く。

 

「はぁ?ゴミ野郎じゃん」

 

そこからの駅のベンチはワカルワカルのオンパレード。
知性も理論もあったもんじゃない、ただ水につけられたアサリが二つドッサリと砂を吐き出すだけの場所となった。

 

吐き出してすっかり元気を取り戻したワカメと共に改札へ向かう。
夕日が良い具合にさしている。後ろから見て逆光の私たちはなんか良い感じになっているであろう。ドラマとかのOPに使われたり、PVで使われるようなあれみたいな。

 

最早思考ですら指示語だらけのふやふやな頭のまま改札に電子カードをかざす。
突如けたたましく鳴る警告音。

 

水を買った分で足りなくなったチャージ額に目を見開き固まる私を見て全てを察したのか「ギャハハハ!!!!!!ダッッサ!!!!!!」とワカメは笑い自分の財布から1000円出してくれた。

 

この察する力と気の回し方。逃した魚、めちゃくちゃでかいぞ。

 

その後、誕生日プレゼントだった財布を質屋に入れたからこれで飲みに行こうと連絡があった。その時までに1000円と恋愛成就のお守りでも用意していこうと思う。